苦痛脱却帳

苦痛や不幸から抜け出す方法を書いていきます

11:一日でやめた建設工事現場のアルバイト

2012年2月、初めてアルバイトをした。派遣会社に登録し、建設現場に派遣される仕事だった。未経験者可で、週1からの勤務可とのことで選択した。注意事項説明を受け、他の人より30分ほど遅れて現場入り。派遣元の会社から同じ現場に行っている先輩がいるとのことで、現場についたらその人を頼りにするように言われた。


現場は15階くらいのマンションの建設現場で、ほぼ形は完成していて、残すは内装作業だった。派遣元の会社が工事現場のトップに話は通していたようだが、先輩には話が通っていなかった。遅れて現場入りすることも話が通されてない。30分遅れたことに対する弁解はなんとか伝わったが、「めんどくせーな」と先輩に言われる。

 

「掃除しろ」とその先輩から指示され、とりあえず仮設足場の掃除をすることになる。12階で床にモルタルを塗っている人に話しかけられた。「絶対こぼさないで、それか下の足場からやって。」それでどうするかを考えていたら、「あームカつくなあ!!」と叫び、電話を取り出し、誰かと電話を始める。上の人に指示をあおいでくれたようだ(これは助かった)。しかしみんな気が立っていて怖い。

 

下の階の掃除に向かう。何かを床に塗っている人がいる。「こっちもやるんですか?(塗るんですか)」と話しかけると、顔を上げて目があった。25歳くらいの人だった。しかしすぐ下を向いた(完全に無視された)。5mくらい離れた所にいた50歳くらいのおじさんが「ニスを塗る」と言ってくれたので、事なきを得た。最低限の会話もしてくれない人もいるらしい。

 

喫煙所は一階なのに、たばこの吸い殻があちらこちらに落ちてる。「ああああもう!!」あちらこちらから怒りの声が聞こえる。作業開始1分で上から大きなボルトが落ちてきた。それに、釘やカッターの刃がそこら中に落ちていて、地震があったら本当に危険だ。マンション建設現場ってこんなことになってたのか…。なぜ建設現場で事故が多いのかわかった気がする。命綱のつけ方は聞いていたが、つけて外してまたつける時間など全くない。先輩の怒りを回避する事を何よりも優先した。自分が落ちるのも怖いが携帯電話や財布が落ちるのも怖い。慎重に移動した。

 

掃除が終わる。しかし自分が掃除した階で何か大きなごみが落ちていたら、それを理由に怒られそうだなと思い、いったん上にのぼってから下までチェックした。最上階で先輩がくつろいでいた。

 

時間通り先輩との集合場所に行く。足場の2階ほど上で現場のトップと先輩が話し込んでいるのが聞こえた。なんと自分の事を「何もしない。掃除もやらずにサボって遊びまわっている」と嘘を吹き込んでいた。。さっき上の階まで行ったのを目撃していたので、それをことさら大げさに吹聴していたようだ。さすがに事実とは大きく違うので、上の階に急いで上がり、「先輩探してました、見つからなくてさっきずっと上まで行きましたよ!」と明るく言うと、「あはは、上まできたのか」と、さっきまでの態度と大違いだった。現場トップの前では滅茶苦茶にこやかだった。

 

しかし2人だけになり、掃除道具どこに返すんですか?と聞くと「だからさっき言っただろ!!」と激怒される。「元の位置に戻すことはどこの現場でも同じ!」と言われるが、元々誰かが使った途中で、足場の上にあったので、元の位置を聞いていない。トイレどこですかと聞いた時「全部一階!(怒)」と言われたので、その一言で掃除道具の場所説明もなされていたのだろうか。一階のどこにあるのかわからないのだが。本当に早く帰りたい。

 

最後に資材(鉄パイプ)を運ぶ作業をする。どこに運ぶのか聞くと「5階!全部5階!」と怒鳴られる。説明はしないが、質問すると全部怒られる、キレられるの繰り返し。1階から5階のマンションの部屋に鉄パイプを運び入れる。鉄パイプをキレイに並べて、廊下に出ようとすると、なんと靴がなくなっていた。やばい誰かに盗まれたか?と思ったが、4~5m先にあった。3回目の運び入れでわかったが、なぜか先輩が通るたびに自分の靴を蹴っ飛ばしてた。いったいどういうことなんだ、、置く場所が悪いという意味なのかも分からないが、マジで何をされるかわからんので自分の靴は別な場所に置くことにした。

 

何度も怒鳴られながら、なんとか一日が終わる。最後だけ急に「誰かに、何かやれと言われたら、お前がやれと言い返せ。」とアドバイスをくれた。DV男というのは最後だけ優しくなると言うが、こういう人なのか?と思った。


本当に濃密な一日だった。一般に言う、不良やヤンキーという人と接触したことがない、というかしないようにしていたのだが、そういった気性の荒い人と接触できた。先輩に暴力振るわれるのかと怖かったし、なんとか死なずにこの現場をやり過ごせればいいやと思い過ごしていた。

 

元々大学で土木・都市工学といった勉強をし、将来的に土木建築関係の仕事に就きたいと考えており、現場の経験を積んだら将来に生かせると思いアルバイトに応募したが、厳しかった。5分で仕事を辞めたいと思った。

 

たった一日だったが、トップクラスのコミュニケーション崩壊現場を体験できた気がする。しかし後に知ったが、「ヤンキー」では一般的なコミュニケーションらしい。ヤンキーのコミュニケーションは特殊で、「詳しく説明しない(何も説明しない)⇒求めているのと少し違う行動をとる⇒キレる」「質問する⇒キレる」これの繰り返しで、そのうち後輩が先輩の説明なしでも完璧に気遣えて支える関係ができるらしい。


『激レアさんを連れてきた。(2022-05-16)』に出演して『ヤンキーと地元』を執筆した打越正行さんも、ヤンキーはこのコミュニケーション法だと書いているようだ(本は見てないけど)。しかしこういった人と密に接触するのは苦痛に違いないので、やはり1日でやめて正解だったと思う。

 

以上